母さんのお葬式が終わって雪子おばさんが礼状のあて名を書いてるとき、螢とお兄ちゃんはテレビで天気予報見てたんだ。台風が来てたんだけど、父さんたち無事に帰れたかな。うちの方、台風の影響受けてるのかな。東京のテレビって北海道のことあんまり詳しくやらないね。東京のことだけが大切みたい。
お兄ちゃんと外に出たんだ。お兄ちゃんどうしたのって聞いたら、恵子ちゃんの家が消えていてショックを受けてた。螢もビックリしたよ。そしたら、お兄ちゃんの担任だった小川先生に会ったんだ。お兄ちゃんの友達は勉強頑張ってるって言っててお兄ちゃんが夜9時頃寝てるって聞いたら先生が驚いてた。恵子ちゃんはアメリカに行ってるって。母さんのことも聞かれたし、お兄ちゃんはいろいろショックだったみたい。螢は東京の先生より凉子先生の方が好きだな。お兄ちゃんもたぶん同じだと思う。
雪子おばさんが富良野に電話してた。螢とお兄ちゃんの2人だけで帰ることになったんだ。おばさん、母さんの本から書きさしの手紙を見つけたよ。螢とお兄ちゃんへの手紙だったんだ。富良野のことが懐かしいって。父さんとの暮らしを聞かせてほしいって。富良野の雲がきれいだったってところで手紙がきれてたんだ。
富良野駅に着いたら、父さんが待ってた。2人を抱きしめてくれたよ。そして、丸太小屋に着いたんだ。すごいね。父さんやったね!螢とお兄ちゃんは急いで中には入ったんだ。暖炉もあっておしゃれな丸太小屋だよ。早速、螢は台所で料理を作ったんだ。お兄ちゃんは薪を運んだよ。父さんは壁の手直しをしてた。
前の家は屋根が飛んだんだって。螢、見に行きたい。そしたら父さんが月も出てるし見に行くかって。やったー!前の家に着いたら、最初に来たときみたいになってた。かわいそう-。裏の畑もめちゃめちゃにやられてるって。螢、見てくる。父さん!キツネが来てる!それが、足が変!3本しかない!いつかトラばさみにやられた子みたい!生きてたんだあのキツネ!父さんがエサを持ってきてくれた。ルールルルルルル。ルールルルルルル。おいでおいで。エサを食べてたよ。ルールルルルルル。ルールルルルルル。おいでおいで。お兄ちゃんのエサも食べたよ。ルールルルルルル。ルールルルルルル。
その晩、螢とお兄ちゃんは初めて丸太小屋で寝たんだ。お兄ちゃんはどんな夢を見てるのかな。この一年間の思い出の夢かな。螢もお兄ちゃんも母さんがいなくてさびしくてつらいよ。だけど、2人のことはもう心配しないでいいよ。雲が今日もきれいだね。母さんが見たという雲はわからないけど、螢とお兄ちゃんはどれだったんだろうってときどき話しているんだよ。