連続第12回 罠

 つららさんが家出して2日経った日、父さんは風力発電のプロペラを付けていたよ。螢は毎日キツネのためにエサをまいてたんだよ。そしたら熊さんが森から何か持って歩いてきたんだ。熊さんが持ってきたのはトラバサミだって。木の棒を置いたらすぐに挟まっちゃったよ。螢、怖くて何も言えなかった。
 学校では凉子先生やみんなで動物の足あと探しをしたよ。ウサギやキツネの足あとを見つけてどっちに歩いたかって。正吉君はすごいよ。ツメの跡を見てこっちだって分かるんだって。その後、教室に戻って算数のテストをしたんだ。そしたらぼんやりしていた凉子先生が突然言ったんだ。誰がそんなことやったんだろうって。螢のキツネの話をしたんだ。正吉君があんなの慣らすのが間違ってるって言うから、お兄ちゃんとすみえちゃんで螢でなんでーって言ったんだ。その後、正吉君は動物を食べるのはしょうがないって言ってたけど、螢はかわいそうだし残酷だなって思ったんだ。正吉君はキツネを慣らすのは間違ってるって言ってたけど、螢のキツネはいいキツネだよ。凉子先生はキツネにエサをあげるとキツネが不幸になるって言ってたけど本当かな?
 家に帰ったら、父さんが赤い牛乳を温めてたよ。赤いバターを作るんだって。父さんが作り方を教えてくれたんだ。父さんと雪子おばさんとお兄ちゃんと螢の4人で作ったんだよ。お兄ちゃんは作り方をうまく説明してたけどね。おいしいバターができたよ。赤い牛乳から作ったバターなんて世界中にうちしかきっとないよね。麓郷名産黒板バター、黒板赤乳バターで売り出そうって。楽しかったよ。
 お兄ちゃん、キツネ今どうしてるのかな?この雪じゃ獲物なんてみつからないわ。3本足じゃ仲間はずれにされるし。あの子このまま凍死しちゃうわ。エサをやったのがいけなかったのかな?螢があの子、殺しちゃったのかな?
 学校が終わったら、螢とお兄ちゃんが凉子先生に呼び止められたんだ。昨日のキツネの話の続きみたい。飼ってるにわとりがキツネにやられたり、育ててる作物を鹿に食べられたりして困っている人がいるって凉子先生が話してたんだ。寒さから身を守るためにキツネやウサギの毛皮をとるって話もしてたんだ。凉子先生も動物を殺すのはイヤだって言ってたけど、そういう暮らしをしている人が今もいるんだって。螢はビックリして何も言えなかったよ。
 家に帰ったら、父さんや中畑のおじさん、熊さんや中川のおじさんが風力発電の準備をしてたよ。今夜から電気がつくって。やったー!それから雪子おばさんの誕生パーティーもするんだって。やったぁ!そんな話をしてたら中川のおじさんがみんなを家に呼んだんだ。やったー!電気がついたよ!やったぁ!ついた!ついた!
 夜になったら雪子おばさんが帰ってくるんだ。びっくりさせようって家の電気を消して待ってたよ。雪子おばさんが中に入ったら家の電気をつけたんだ。みんなでハッピーバースデーの歌を歌ったんだよ。おばさんちょっと涙ぐんでた。それからパーティーが始まって、みんなで歌を歌ったりごちそうを食べたりしたんだ。楽しかったー。
 薪を取りに父さんとお兄ちゃんで外に出たら、正吉君のおじいちゃんがいたんだ。お父さんに馬はいらないかって。馬を手放すことにしたって言ってた。おじいちゃん、ちょっと寂しそうだったんだ。昔の話もしてたよ。生活するために動物を殺してたんだって。凉子先生の話してたことと同じだ。螢のキツネが捕まったトラバサミも正吉君のおじいちゃんが仕掛けたんだって。正吉君にチョッキを作ってあげたかったって。螢、正吉君のおじいちゃんのこと恨んでないよ。帰るときおじいちゃんも言ってたけど、3人で富良野に来て4ヶ月経ったんだ。
 2月になっても雪はたくさん降ったけど、螢たちはだんだんこの暮らしに慣れてきたんだ。4月になる頃、沢の雪が少しずつとけ出しフキノトウが出てきたよ。螢とお兄ちゃんでフキノトウをたくさんとったんだ。

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