連続第10回 奇跡

 お兄ちゃん!お兄ちゃん!水道の屋根やっとけって父さん言ってたでしょ。お兄ちゃんは寝転んでラジオ聞いてるし。お兄ちゃんと外で作業してたら吉本のおばさんが来たよ。風力発電の機械がそろったみたい。雪子おばさんとお兄ちゃんが町まで取りに行くって。父さんには内緒にして驚かそうって。
 螢、家で一人で留守番してたんだけど、午後になったらだんだんと雪が降ってきたよ。お手玉してあそんでたら、正吉君のおじいちゃんが来たんだ。螢、お手玉上手にできないから正吉君のおじいちゃんが教えてくれたんだよ。歌いながらお手玉してたよ。うわぁ上手。お話ししてたら父さんが帰ってきたよ。正吉君のおじいちゃん、馬で来てるんだって。螢、見てくる。家に戻ったら正吉君のおじいちゃん、怖い顔してた。父さんと何の話をしてたのかな。本当は正吉君のおじいちゃんって優しいんだよ。
 夜になってもお兄ちゃんと雪子おばさんが帰ってこないから父さんが探しに行ったんだ。辰巳のおじさんやおばさん、中畑のおじさんやおばさん、熊さんや中川のおじさんもみんな心配してたみたい。雪がすごくて車も通れないみたいだから、父さんと正吉君のおじいちゃんは馬に乗って探しに行ったんだって。車が吹きだまりに突っ込んで動けなくなってたみたい。馬は人間を探せるんだって。それで雪子おばさんとお兄ちゃんは助かったんだよ。馬ってすごいね。
 吹雪はそれから丸2日続いたんだ。その間、父さんはぼんやりした顔でお酒ばかり飲んでた。雪子おばさんはダウンしちゃった。吹雪で停電になったから他の家は大騒ぎだったみたい。うちは電気もないし水も沢から引いているからいつもと同じだったんだ。

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