連続第21回 再会

 凉子先生がいなくなってから富良野は急に秋めいてきたよ。草太兄ちゃんが初めて札幌で出るボクシングの大会がもうすぐなんだ。草太兄ちゃんはトレーニング頑張ってるみたい。
 夜になったら草太兄ちゃんが家に来たよ。螢と雪子おばさんは台所でスイカの用意をしてたんだけど。お兄ちゃんはこごみさんが来るのがイヤで草太兄ちゃんに相談してた。グサっとくるいい言葉ないかって。そしたら雪子おばさんは言葉で人を傷つけるのはしちゃいけないって。「けがした傷ってすぐ治るけど、言葉で受けた傷はなかなか治らない」っておばさん言ってた。螢とお兄ちゃんはスイカを食べてたんだけど、草太兄ちゃんは雪子おばさんの言葉を手帳に書いてた。気の利いた言葉言いたいって、他にもお坊さんから聞いた言葉も書いてあるみたい。「病気は治るがクセは治らん。お前のバカはクセだから治らん」だって。ボクシングには雪子おばさんとお兄ちゃんは行くって言ってた、螢はこわいから行かないよ。草太兄ちゃん、気が効く、優しいって。お坊さんの言葉「バカにつける薬はない。けど腕力は多少の気休めになる」だって。
 試合の日にちが目の前に迫って草太兄ちゃんは毎日走ってたよ。いつもの草太兄ちゃんと違ってた。男っぽくてすごく素敵だったよ。草太兄ちゃんは完全なボクサーだったよ。
 試合の前日、お兄ちゃんと雪子おばさんは汽車で札幌に行ったよ。後でお兄ちゃんに聞いたんだけど、草太兄ちゃん負けちゃったみたい。だけど、素敵だったって感動したってお兄ちゃん言ってた。それから試合の後、つららさんに会ったんだって。
 父さん、この4、5日町に出かけてないね。行ってくれば?螢は平気だよ。父さんに好きな人ができても。
 8月20日で夏休みが終わって、螢とお兄ちゃんは本校に通い始めたんだ。富良野はもう秋がはじまりかけていたんだ。

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