’87初恋

 中学3年になったお兄ちゃんは、機械を見ると何でも分解しちゃうことからペンチというあだ名で呼ばれていた。
 ある日、お兄ちゃんは大里さんちの裏手に捨てられていた風力発電の装置を発見した。さっそく分解しようとすると、れいちゃんが現れ持っていっても構わないって言われた。お兄ちゃんはその装置を使って風力発電をつくり、父さんの誕生日にプレゼントすることを思いついた。
 れいちゃんに一目惚れしたお兄ちゃんは、自転車を修理してあげたことから仲良くなった。朝早く出かけて、れいちゃんとデートしたこともあった。中学を卒業したら東京に出て定時制高校に通いたいって思ったのもれいちゃんの影響みたい。そのことを草太兄ちゃんに相談したり、雪子おばさんに手紙を書いたりしたけど、父さんには言い出せなかった。
 父さんの誕生日、私とお兄ちゃんは父さんの帰りを楽しみに待っていた。父さんは、お兄ちゃんの東京行きの計画を知らなかったことがショックだったみたい。父さんがお兄ちゃんを問い詰めて喧嘩になっちゃった。その夜、大里さんが奥さんを誤って轢いてしまうという悲しい出来事があった。
 冬になり町で偶然出会ったお兄ちゃんとれいちゃんは、クリスマスイブに納屋で会うことを約束した。しかし、クリスマスイブの日、お兄ちゃんが友達とクリスマスプレゼントを配っていると、大里さんの家が夜逃げしたことを知った。お兄ちゃんが納屋に行くと、そこにはれいちゃんからの手紙とプレゼントが残されていた。プレゼントは尾崎豊のカセットテープで、イヤホンをつけるとI LOVE YOUが聴こえてきた。
 父さんはお兄ちゃんの東京行きの手はずを整えていた。卒業式の後、お兄ちゃんは東京行きのトラックに乗り込んだ。運転手さんから父さんの泥のついた一万円札を受け取り、お兄ちゃんは幼い日のことを思い出し涙していた。

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